本文へ移動
道民にとって
医師・歯科医師にとって
より良い医療を目指して
入会パンフレットはこちらから

活動紹介

医療従事者の裁量を制限せず 医療事故の再発防止に向けた提言第9号
2019-11-20
カテゴリ:私たちの主張,活動紹介
分析のイメージ(厚労省資料を一部改変)
日本医療安全調査機構(以下、機構)は10月31日、「医療事故の再発防止に向けた提言(第9号)の対応に係るお知らせ」を発表し、提言1の「転倒・転落による頭部打撲(疑いも含む)の場合は、明らかな異常を認めなくても、頭部CT撮影を推奨する」について、医療従事者の裁量を制限したり、新たな義務を課するものではないことを明らかにした。
 
この提言については現場の医師などから疑念が出され、本会も変更を求めて活動してきたところである。
 
2015年10月に医療事故調査制度がスタートし「医療に起因又は起因すると疑われる死亡又は死産のうち、医療機関等の管理者が予期しなかった事例」のすべてを機構に報告することが医療関係者に義務付けられた。機構は報告された事故事例を分析し、医療事故再発防止に向けた提言を行っている。提言の公表にあわせて、厚労省から日本医師会をはじめとした各医療関係団体に提言の周知依頼が出され、文書の郵送やホームページ等で周知が図られていた。
 
全ての事例にCT撮影か
 
前の意識状態と比べ、明らかな異常を認めなくても、頭部CT撮影を推奨する」とし、機構は医療機関に注意喚起を促した。理由として転倒・転落した患者本人の訴えや頭部皮膚所見の有血腫増大による頭蓋内圧亢進症状となる場合があるためとしている。

また提言内では「学術団体などから発表されるガイドラインとは区別される」と述べてはいるが、機構は厚労大臣が指定した唯一の医療事故の再発防止に係る普及啓発を実施する機関であるため、提言の内容が独り歩きし診療の方針に影響を与えかねない。
 
提言に記載された内容では、転倒・転落事例の無にかかわらず、急激な〝全事例”において頭部CT撮影を行う必要があるとも読み取れることから、医療現場の混乱、医療財政への影響などの危惧があった。
 
転倒・転落事例の全てで、提言が示すように頭部CT撮影を必要とすることになれば、病院以外の施設はCT装置をほとんど持っていないため、装置を有する病院に搬送することになる。また、転倒・転落は夜間の時間帯に多く、人手の少ない夜勤帯の職員が、家族の呼び出しや説明、CT装置を有する病院への搬送を行わなければならず、医療現場はさらに疲弊することになる。転倒・転落を繰り返す患者もおり、対応の煩雑性だけでなく、患者の被ばくリスクも注意しなければならない。
 
病院の救急外来は、CT撮影を行うために搬送された転倒・転落患者を診ることになり、今以上の過重労働となる。読影行為の増加は数少ない放射線科医にも影響が及び、医師をはじめとする医療従事者の労働時間削減、働き方改革の潮流に逆行する事態となる。
 
医療現場の混乱は必至
 
転倒・転落事故後に、どんなに丁寧な診察を行い、異常がないことを確認していたとしても、たまたま不幸な経過をたどった時には、CT撮影を行っていない一点をもって訴訟の根拠にされてしまう可能性もある。医師がその訴訟リスクを避けるために、機械的にCT撮影を行うことになれば撮影料、画像診断料など相当額の医療費増加も懸念される。
 
機構が示した提言第9号は、診断学の進歩や医師の裁量権を考慮していると言えるものではない。頭部CT撮影を無条件に行うのではなく、いくつかの臨床所見を満たし中枢神経障害が疑われる場合等の要件を限定して推奨すべきである。
 
本会は、この提言が周知され、入院中に発生した転倒・転落の全事例に適用されることになれば大きな問題になると考え、保団連をはじめとした関係団体に対し、これらの問題点を指摘し提言内容の変更を求める活動を進めてきた。
 
提言は裁量権を侵害せず
 
機構は、提言内容について疑問・指摘が寄せられたことを受け10月31日、提言第9号の「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析」の趣旨と、機構が発出する提言全体の位置づけを明確化した(「提言9号に係る対応について」:https://www.medsafe.or.jp/modules/news/index.php?content_id=136参照)。
 
見解では、頭部CT撮影について「患者の傷病の状況、年齢、本人やご家族の希望の他、診療体制・規模を総合的に勘案した上で活用を」と強調し、転倒・転落事例の全例に対して適用するものではない旨を示した。また、機構が出した提言全体についても「『死亡に至ることを回避する』という視点からの考えを示したもので、医療従事者の裁量を制限したり、新たな義務を課したりするものではない」と位置づけた。医療従事者へのさらなる負担を強いるものではないことや、本会が指摘した「提言内容が全事例に適用される」「医療者の裁量権が侵害される」ものではないことが明らかとなった。本会は、今後も保険医が安心して日常診療を行えるよう、関係団体とも協力し多岐にわたる活動を精力的に行っていく。
TOPへ戻る