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北海道保険医新聞より
解説
 

安心と希望の医療確保ビジョン

 止まることを知らない医療崩壊、医師不足に対して舛添厚労相の私的諮問機関「安心と希望の医療確保ビジョン会議」が答申案をまとめた。
 会議は今年一月から十回開催され、医療現場の視察やヒアリングした内容を重視した内容となっている。深刻な医師不足の原因は「偏在」だけではなく「絶対数の不足と偏在」であると政府が初めて認め、一九九七年の閣議決定を変更し、医師の養成数を増加させると明記された。しかし、この発表が二回に分けて行われるなど不透明な一面もあり、今後の経過を注視する必要がある。

医療従事者等の数と役割
 「医師の需給に関する検討報告書」(平成十八)では医師不足数を九千人とし、「緊急医師確保対策」(同十九)により医師養成の前倒しという方針が立てられたが、このビジョンでは従来の閣議決定に代えて医師養成数を増加させる。
 平成十六年度からの臨床研修制度の見直しや、研修医受入数の変更も図る。
 女性医師対策は最重要の課題とされ、「短時間正社員制度」や復職研修の充実などを進める。
 診療科のバランスの確保の為に自治体とも検討する。個々の病院の実態に見合う適正な医師数を確保するよう、医療法標準を見直す。

地域で支える医療の推進
 救急患者に対して地域全体でトリアージ(重症度、緊急性の患者区分)を行い、各医療機関の専門性についての情報の共有、後方ベッドの確保、消防機関との連携、住民への情報開示を推進する。地域連携クリティカルパス等を利用した円滑なネットワークの構築に努める。
 在宅医療の推進の為にはシームレスな医療と介護の連携を図り、末期がんや精神・神経疾患等の専門性の高い分野にも対応できるようにする。

医療従事者と患者・家族の協働の推進
 医療は公共性の高い営みであり、患者側は健康の自己管理の努力と安易な時間外受診(いわゆるコンビニ受診)で医療資源を浪費しないよう啓発する。医療の公共性や不確実性に関する認識の普及の為の各種懇談会や学校教育にも努める。

医療のこれからの方向性
 これまでの医療は「治す医療」が中心であったが、予防を重視し、患者と家族の生活を医療を通じて支援していく「支える医療」という発想が一層求められる。「治し支える医療」は医療従事者と患者・家族の協働の作業であるという視点が重要である。

考 案
 評価すべき第一は、実態に合わせて医師養成数の閣議決定を見直したことである。従来の医師数は、勤務していない高齢医師や産休中女性医師等を含めた総数であり、実態から乖離している。尚、従来の不足医師数の算定方法は、一人当たりの労働時間は実際に勤務する時間から本を読む時間や研修時間は除外され、当直時は診察時間だけをカウントし、患者待機時間は除外され労働時間とされていない。この様にかなり少なめに算定された「勤務時間」が、労働基準法で定めた法定労働時間を上回る週四十八時間と前提して、何人不足するかと計算されてきた。だから厚労省計算では九千人(平成十六年)不足だが、独、仏などEU水準では十万人以上不足で、明らかに絶対数が不足している。
第二に、リスクと不確実性を伴う医療の限界を前提にしながらも、医療従事者側と患者・家族側との協働の推進は、医療崩壊に歯止めをかける直接有効な手段であり、患者側代表委員からも評価が高い。
 しかし、このビジョンの前途は多難である。第一に、あらゆる施策に予算の裏づけがない。当初検討された中医協の見直しはなく、大臣が言明した骨太方針でも具体的内容はない。社会保障費二二〇〇億円削減方針撤回も無く、道路特定財源の一般財源化頼みである。医師を養成する大学教員も疲弊していて、文部科学省の積極的な協力なくして大幅な養成数増加は困難である。
 第二に、このビジョンは福田内閣一代限りの可能性がある。厚労省を改革せよ、と指示された舛添厚労相は、私的諮問会議を率いて従来の机上プラン型から現場主義を主導したが、この会議への官僚の参加は殆ど傍聴人であり、官僚にとっては後塵を拝した事になる。ビジョン発表の当日、正式発表の数時間前に事務方が急遽マスコミ発表を急ぎ、異例な二回の記者会見となったのは今後の主導権争いの反映ともいえる。発表数日前に百五十名の国会議員による超党派議員連盟が医学部定員増と二二〇〇億円削減見直しを求める決議をまとめた。医療崩壊からの建て直しは各界、広範な勢力を結集する必要がある。


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