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医療事故調査委員会設置をめぐる動き
厚労省は二〇〇七年十月に「診療行為に関連した死亡の死因究明等の在り方に関する試案(第二次試案)」を発表した。医療事故の原因究明、被害者への保障の前進が求められているが、現在進められている議論は、むしろ医療崩壊に拍車をかける危険が大きい。
医療技術の進歩にも拘わらず、低医療費政策が長期にわたって続いている。今次診療報酬もマイナス改訂となり、医師の過重労働改善とは程遠いものである。それに加え福島県立大野病院事件の医師逮捕・起訴に見られるように、医療現場を崩壊させるような事態が起こっている。二〇〇七年三月に厚労省は「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する検討会(以後検討会)」を発足させ、会合を重ねている。十月に第二次試案を公表したが、医療現場に対する厳罰化が貫かれ、大きな議論を呼んでいる。診療関連死の取り扱いの歴史経過を表1に、二次試案の構成を表2に示す。
検討会の構成メンバー
座長は刑法学者である首都大学大学院法学政治学教授の前田 雅英氏で、他に法律家四人、医療関係者六人、市民団体など三人、計十四人である。オブザーバーとして法務省刑事局刑事課長、警察庁刑事局刑事企画課長が参加している。新聞社からは読売新聞のみが参加している。この布陣は後で述べるように、届け出義務化や重過失は警察に連絡という案の内容と密に関連している。
第二次試案の概略
1 組織の在り方
厚労省内に医療事故調査委員会を設け、臨床医、病理医、法医などの医療従事者、法律関係者、遺族で構成する。この下に地方ブロック委員会を設置する。
2 診療関連死の届け出
医療機関からの届け出を義務化する。怠った場合にはペナルティを科すことができる。届け出の範囲は「誤った医療または管理による死亡、誤りは明らかでないが行った医療または管理に起因して死亡した場合」とされる。届け出は大臣が受理し、必要な場合は警察に通報する。
3 院内事故調査委員会との関係
院内事故調査委員会における調査・評価が極めて重要で、外部委員を加えて体制の充実を図るとしている
4 行政処分、民事紛争および刑事手続きとの関係
これらの手続きに委員会報告を活用できる。行政処分は医道審議会などで行う。また警察の捜査と委員会の調査との調整を図る。
第二次試案の問題点とパブリックコメント
調査委員会が厚労省内部に設置されることにより、厚労省は調査と処分の両権限を持つことになる。また遺族を含めての調査は、純粋に科学的な原因調査を進める上で困難を伴う。
届出義務化、届出の範囲および警察への通報は、二次試案の厳罰・統制的性格を明瞭に表している。「誤りは明らかでないが行った医療に起因した死亡」には、広範な死が含まれることになる。
事故調査結果を処分と連動させないことは航空業界でも国際的な常識となっている。連動することになれば真相究明は困難になる。院内調査の内容が警察への通報につながることになれば、院内調査で原因を明らかにして患者家族に説明すること、職員の人権を守ることが困難になる。
以上にあげた指摘は、パブリックコメントとして多数寄せられている。懲罰的な性格、医療崩壊加速の危惧、医療の不確実性に対する認識の不足、調査委員会の独立性のなさなどを指摘する意見が多い。
第二次試案発表以後の医療団体の動き
日医、内科学会、外科学会など、死亡調査モデル事業に関わってきた団体はこの試案に賛意を示している。調査・分析を目的としたモデル事業と二次試案の性格は大きく異なる。会員に対する説明と、結論を急がずに会員の意見を集約することが求められる。
二月二十日には第十二回検討会が行われ、処分対象の事例や届出の範囲を例示している。しかし二次試案の性格は変わっていない。拡大解釈されるようになった医師法二一条、刑法二一一条(註)の業務上過失致死傷による届出は存続し、処分を伴う可能性のある医療事故調査委員会への届け出という負荷が加わることになる。
必要なのは真に公平な第三者機関の設置であり、科学的な調査と再発防止策の提示、患者・家族を支援する仕組みを作ることである。検討会の議論が進んでいく中、二〇〇七年後半になって副作用や有害事象を報告した論文が激減している。東京大学医科学研究所、上 昌広 准教授グループの調査によれば、合併症の論文、副作用の論文とも総論文数に対する割合が著減し、特に症例報告の割合はゼロに近くなっているという。有害事象を広く伝えることにより、医療の安全性を高めるという重要な仕組みが壊れてきている。
本会は三月一日に公開医政講演会を開催し、虎の門病院の小松 秀樹先生をお招きして第二次試案の問題点・危険性を解説いただいた。この問題をもっと広める運動を旺盛に展開したい。
【注】刑法二一一条:業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、五年以下の懲役若しくは禁固又は百万円以下の罰金に処する
*最後の、講演会をやったことをもっと強調したほうがよいという意見がありましたが、1面に開催記事が詳しく載っているので、そのままにしました。
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表1 診療関連死の検討に関する歴史的経緯
1948年
医師法21条 「異状死体の届出義務:診療関連死想定せず」(医発385 医務局長通知)
1994年
日本法医学会 「異状死ガイドライン:診療関連死を異状死に含める」
1999年
横浜市立大学 「患者取り違え事件」
都立広尾病院 「消毒薬の誤注入事件」
2000年
厚生省 「国立病院のマニュアルで診療関連死を異状死に含める」
2004年
都立広尾病院事件の最高裁判決
「診療関連死を異状死に含める」が確定
2005年
日本内科学会等 「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」
2006年
福島県立大野病院 「帝王切開・癒着胎盤をめぐる死亡で、執刀医を逮捕」
2007年3月
厚労省 「診療行為に関連した死亡に係る死因究明等の在り方に関する検討会」
2007年10月 厚労省 「第二次試案」公表
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表2 厚労省第二次試案の構成
1 はじめに
2 診療関連死の死因究明を行う組織
3 診療関連死の届出制度の在り方
4 委員会の調査の在り方
5 院内事故調査委員会
6 再発防止のための更なる取り組み
7 行政処分、民事紛争および刑事手続きとの関係
8 本制度の開始時期
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